2007年01月10日

ある女房、よき声の念仏者に恋着の事

(古今著聞集第二十五興言利口編)
 或る所に、能〔よ〕き声をそろへて念仏を申させけり。聴聞〔ちょうもん〕の女房の中に、ある念仏者を心がけたるありけり。「いかでがな物いひかはさん」と思ひけれども、人目しげくてかなはざりければ、とかくためらひて、行道〔ぎょうどう〕の時ちとあしをつみて、その気色〔きそく〕を見せて、何となく立ちあがりて、後戸のかたにて、「ちともの申さむ、えい」といひかけたりけるを、返事いはば人聞きとがむべかりけるほどに、念仏の音曲にまぎらかして、南無阿弥陀仏の南無を「さもあみだ仏」と申したりける、いかにをかしかりけむ。

 さる所で、美声で読経を得手とする僧侶を集めて念仏をさせることになった。そしてそれを聴聞する宮仕えの女房の中に、その念仏をするうちのある僧に恋焦がれている女があった。
「何とかしてあの方にお声をかけて、誘ってしまいたいっ」
 と思っていたのだけれども、念仏の場は人目が多くてそれは叶わないので、どうしたものかと思い、僧たちが念仏しながら仏の周りを練り歩く際にちょっと彼の足先をつねって、その気〔け〕を見せ、つと立ち上がり後戸の陰で、
「ちょっとすみませんお話が、あの」
 と声をかけたのを、しかし彼もそこで正直に返事をしてしまっては他の者が聞きとがめそうなので、そこで念仏の音曲に紛れさせて「南無阿弥陀仏」の「南無」を「さもあみだ仏」――「さもありなん。お気持ち承知いたしました」と、引っ掛けこっそり返事をしたその機転、何とも粋じゃありませんか。
posted by 以津真出 at 19:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 古今著聞集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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