2008年04月15日

歌読みて罪を免さるる事

(宇治拾遺物語巻九ノ六)
 今は昔、大隈守なる人、国の政をしたゝめおこなひ給あいだ、郡司のしどけなかりければ、「召にやりていましめん」といひて、先々の様に、しどけなき事ありけるには、罪にまかせて、重く、軽くいましむる事ありければ、一度にあらず度々しどけなき事あれば、重くいましめんとて、召すなりけり。
 「こゝに召していて参たり」と人の申ければ、先々するやうにし臥せて、尻頭にのぼりゐたる人、しもとをまうけて、打べき人まうけて、さきに人二人ひきはりて出来たるを見れば、頭は黒髪もまじらず、いと白く、年老たり。
 見るに、打ぜん事いとほしくおぼえければ、何事につけてかこれを許さんと思ふに、事つくべき事なし。あやまちどもをかたはしより問ふに、たゞ老をかうけにていらへおる。いかにしてこれを許さんと思て、「をのれはいみじき盗人かな。歌は読みてんや」といへば、「はかばかしからず候ども、読み候なん」と申ければ、「さらばつかまつれ」といはれて、程もなく、わなゝき声にてうち出す。

 年を経て頭の雪は積もれどもしもと見るにぞ身はひえにけり

といひければ、いみじうあはれがりて、感じて、許しけり。
 人は、いかにも情はあるべし。

 昔々、国司大隈守という人が国政をつかさどっていた間のことだが、郡司が職務怠慢であったので、
「呼んで一つ灸をすえてやろう」
 と国司は言って、これまでに同じように怠慢が露見した際には罪によって重くも軽くも処罰したことがあったので、一度ならず度々この郡司が職務怠慢であったというなら厳重に罰してやろうと思って、その郡司を呼びつけた。
「連れて参りました」
 と人の声がして、これまでと同様にうつむいて、尻頭で押さえる者、鞭で打つ者の二人に引かれて現れたこ郡司は、黒髪の一本も残らぬ白髪の老人であった。
 見るからに鞭で打つのは可哀相で、何とか理由をつけてこの郡司を許してやろうと国司は考えたのだが、うまい口実が見つからない。罪状を片っ端から尋ねると、ただ老いていることを理由にしている。どうやって免じてやったものかと考えあぐねて、
「おまえはなんという盗っ人か。おまえのような者でも歌は詠むのか」
 と尋ねると、
「大した腕ではありませぬが、詠みます」
 そのように言うので、
「では詠んでみよ」
 と、国司が言うと、程なく、わなわなと震える声で郡司は詠み出した。
「年を経て頭の雪は積もれどもしもと見るにぞ身はひえにけり」

 年をとって頭も雪の積もったように白くなってしまいましたが、霜を見ると身体は震えてしまいますし、その鞭を見ても身の震う思いでございます。

 と詠めば、国司もその歌にすっかり感じ入って、罪も許されることとなった。
 まあそのような話もあるのだし、人は和歌を詠むくらいの洒落心はぜひとも持っているべきだということだ。
posted by 以津真出 at 22:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 宇治拾遺物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/93496574

この記事へのトラックバック